10.倒産して喜ぶのは銀行だけ

中古マンションの買い取り業が、80億円の売上、社員50人、営業所3カ所、
ベンチャーキャピタルから株式上場の話もあり、一見、順調に見えました。買い取り自体が
ハイリスクハイリターン。プロでも6勝2敗2分の世界。砂上の楼閣。30億円の借金を返すために、50億円の借金をしました。ある時、車で移動中で、なぜか涙が止めどなく出てきました。お金を回すのが、つらくてつらくてしようがなかった。お金に全てをコントロールされているお金の奴隷状態だったんですね。給与だけでも2000万円、内装費などの支払いで1億円を超える時もあり、仕入れが先行して、回収が遅れると大変でした。その後、株式上場のためには、売上のカサを増やさなければならない状況になり、30億の借金を返さなければいけない状況で焦りもあり、土地の分譲に手を出しました。
土地は付加価値がないので、下がると一気に下がるんですね。
リーマンショックが弾けて、貸し剥がしに遭いました。
ちょっと前までは、この運転資金を借りてくれなければ、プロジェクト資金を絞りますよなどと、借入金を脅してでも貸そうとしていた、銀行員が急に掌を返して、貸しはがしをしてきました。融資期間を1年間で借りていたものを3ヶ月で返してくれなどと無理難題を押しつけてきました。
悪いことは続くもので、最大の協力者であった貸しビル業の社長も急死してしまい、
当時、運転資金で借りていた3億円のお金も直ちに返済しなければならない状況になりました。
新興ディベロッパーはほとんど、潰れてしまったのですが、うちも同様、借入依存率の高い
商売をやっているところが生き残っていける状況ではなかった。社員を一人一人、
会議室に呼び出して、泣きながら事情を説明して全員に辞めてもらいました。中には
一緒に泣いてくれる社員もいました。その後、次の就職先が決まったと携帯に電話をくれもう、心配しなくて大丈夫ですよと言ってくれる子もいました。また、半年後に結婚するので、是非、主賓として参加して下さいと言ってくれる女子社員もいました。どん底の時に、なかなか参加する気にはなれませんでしたが、嬉しい気持ちもあったので、参加させて頂きました。そう言えば、先日、ある講演を告知するfacebookのウォールに、前の社員から「今でも尊敬してます。」というコメントももらって、嬉しかったです。こんなだらしない社長でしたが、今でもつながっている社員は結構いますね。それは、財産ですよね。
忘れもしない、年の瀬も迫る12月28日にスポンサーとしてお世話になった貸しビル会社の
新社長に「社長、今までお世話になりました。もう、会社は継続していくことはできません。
倒産します。」と言ったら、みなさん、なんと答えたと思います。「杉浦さん、倒産して喜ぶのは銀行だけですよ。」と・・・。「ハっ」としました。そうだった、冷静な時は、こんなあたり
前なことはわかっていたつもりだったけど、私も当時、文字通り首が回らない状態に
陥ってたんでしょう。倒産すれば、銀行は不良債権として貸倒引当金を積まなくてよくなるし、
利益のでている銀行は損金計上できます。さらに、抵当権に入っている物件を競売に
掛ければ、入金も見込めます。
とにかく、これをきっかけに気持ちを持ち直すことができました。
人間というのは、楽な方、楽な方へ、行きたがるんですね。この時期、自分で判断するのが
怖かったり、先がわからなくて自信がなくて、占い師にでも、相談してみようと何度か思ったん
ですがそのたびに踏みとどまりました。例え間違っても良いから、自分で判断しようと。
それから、倒産しようとする発想もそうですよね。その方が楽だと思ったんです。
けど、人間楽しちゃ得るものはないんです。その時は辛いかもしれないけど、問題と
向き合わないと同じような問題が発生した場合、永遠に解決できないんです。
考えてみれば、不可能だと思えた30億円の借金返済ができた訳だし、自宅も確保することは
できた。それと同時に、この会社自体が一つの役目を終えるように駄目になっていったと
考えれば1勝1敗だと割り切って、切り替えていけば良いじゃないか。いや、むしろ、無理だと
思った自宅を守ることをやりとげたんだと・・・。