今回は、よくある売却の失敗パターンの1つである事例を元に話しをしていきます。
「売れなくて困っている。」
ここから始まるご相談で「ヤラれたなぁ。」と思ってしまうパターンが題名にもしている『売主負担でのフルリフォーム工事後の売却』です。
補足:本記事の最後には、マンションの建て替えが可決された場合の住まいについての考え方にも触れています。
今後は建て替えが可決されるマンションも出てくることでしょう。
そちらにも目を通して参考にしてみてください。
≪ 目次 ≫
1.不動産会社だけがおいしい話
2.不動産会社の不得手と売主の損
3.問題、解消、提案は1セット
4.信用から生まれた仕事
5.マンションの建て替え案が可決されたら
不動産会社だけがおいしい話
売主負担でのフルリフォーム工事後の販売の問題点を、最初に挙げておきます。
1.不動産会社の紹介での施工で、不動産会社には紹介料が入るだけ
2.ところどころ手が入っていない工事になる
3.売れずに値下げで結局、出費が無駄になる
中には上手くいくケースもあるでしょう。
今回のようなケースになっても良いものか、考えてみてほしいと思います。
不動産会社の不得手と売主の損
お声掛けいただいた時、まず驚いたのは物件が一戸建ての売却なのに、任せていた不動産会社は投資用ワンルーム販売ばかりを手掛ける不動産会社だったことです。
ここが長いこと売れずに失敗していた案件というわけです。
当然に物件情報に鮮度なんて残っていません。
物件は情報鮮度こそ大事にするものです。
物件を知ってみて、慣れていないなと分かる2つの大きなミスがありました。
1.フルリフォームであってリノヴェーション工事ではない
2.下準備のない単純な売り出し方法
【リノヴェーション工事ではないことについて】
まず、言っておくのは『フルリフォーム工事をしての売却』なんて、絶対止めたほうが良いということ。
ほとんどの流れが下記のようになります。
1.工事後なら○○百万円アップで販売開始ができる
2.不動産会社の紹介での施工で、不動産会社には紹介料が入る
3.ところどころ手が入っていない工事で完了
4.売れずに値下げで結局、意味がない
5.不動産会社は安くなって売りやすくなる
得をするのは不動産会社だけなんです。
【下準備がないことについて】
この物件は、建ぺい率と容積率が規定よりも超過しているものでした。
これ自体は、前の不動産会社も把握していたことは販売図面から分かりました。
問題は、この点の解消方法を探さずに販売に踏み切っていたことです。
なんの手も打たず、売主にも当然に提案がなされないまま、売却をスタートし時間だけが過ぎてしまっていたのです。
解消策が販売図面に記載されていないことで、物件を気に入ってもらえても普通に住宅ローンの審査に掛けてしまい金融機関から否認が出される・・・
何百万円も先行投資で売主に負担させて内装工事を行わせて販売しても、当然に売れない。
悪循環です。
不動産会社の不誠実さを感じました。
売主の不動産会社を切り替えたくなる気持ちが分かります。
問題、解消、提案は1セット
規定超過をしている物件で、まず把握することは『何%超過しているのか?』
私に正式に売却活動を依頼されたので、まずは状況の把握と整備に努めることにしました。
建築士に声を掛けて、物件資料に目を通してもらい規定内に収めるアドバイスを依頼。
「2階の半分を潰さないと、(規定以内に)収まらないね。」
こんな回答が出るほどの内容だったということです。
販売価格の設定(査定)にもズレがありました。
物件の現状や競合物件の状況、市場相場との整合性も取れていなかったのです。
金融機関には、ほうぼうを当たってみました。
現状のままの売却ならば、頭金を20%入れたら融資が可能な金融機関が見付かったのは、唯一の救いの手となりました。
売却戦略には売主の理解と承認が大事です。
何がダメなのか?なぜ、今後はこうするのか?
その理解が売主に無ければ良い売却過程は築けないですし、売主との信頼関係も築けません。
提案は2つのコース。
・建ぺい率・容積率の超過を2階部分の取り壊しをして適正物件に直す
・このままの状態で値段を適正価格に下げて、頭金が潤沢な人が現れるまで待つ
どれも売却による資金計画が大きく減額する話です。
言い難い内容ではありましたが、売主にも情報と現状を共有していずれかを選んで頂くしか道がありません。
とにかく、現状のままでは一般市場で売り出していても見通しが余りにも付かないことに、何よりも理解を得たく報告しました。
業者の買い取り金額も参考までに調査したところ、まるで話にならないだろうといった値付けでした。
現金化をするには最も早い手立てですから、これも報告。
物件のネックと解消方法(適したお客様の明示)を行なったことで、改定した価格で申し込みが入り時間を要することもなく、ここで特筆することもないぐらいに円滑に成約に至ることができました。
それぐらい、ネックに見合った価格設定と解消方法が伴っていれば、物件の魅力は十分に分かってもらえる内容だったということです。
信用から生まれた仕事
チェック項目にきめ細かな配慮が必要なご夫婦ではありましたが、それだけに本件の私の対応は気に入ってくださいました。
この案件が解決したところ、別件で物件の売却も任されることになりました。
1つ目は、奥様が相続した実家のマンションの売却相談でした。
奥様が相続した築40年のマンション、90㎡超えの広さ。
書庫として使っていたので、多過ぎる荷物による雑多な状態には驚かされました。
室内状況からすると、一般市場への売り出しには不適格。
前回の売却のこともあり、マイナス点であっても思ったことをきちんとお伝えしました。
一般市場に適した状態の場合の査定額も出しつつ、買い取り業者との取り引きで無駄な時間を使わないことが最良案として提案しました。
ご納得いただけたこともあり、複数の買い取り業者に連絡をして、入札方式による相見積もりを取ったところ・・・
予想外の高買いをしてくれることになり、なんと一般市場価格に近い金額で買いたいと手を挙げた業者が見付かったのです!
満足すぎる買主も見付かり、引き渡しに向けた室内整理には私も手伝いに行かせて頂きました。
買い取って頂いた後の再販売では、同じマンション内で少し狭いタイプとはいえ、リノヴェーション物件が売り出されてしまい苦戦を強いることになりました。
お客様に一般市場での売り出しを勧めなくて本当に良かった、そう思う次第でした。
結局は、時間は掛かりはしたものの、広さを求めていた人が気に入ってくださり購入して頂けました。
マンションの建て替え案が可決されたら
2つ目は、住んでいるマンションの建て替え案が総会で所有者の賛成が5分の4に至り可決され、今後についてのご相談でした。
この悩みを持たれる人は、今後増えてくることでしょうね。
でも、可決した場合の身の振り方は周りに聞いても、状況に合わせた答えが得られることは難しいと思います。
参考になれば、幸いです。
今回のご相談では、敷地の広さから新築される規模として建て替えの工期は2年ほどになる見通しでした。
もし、建て替えた新築に住むのであれば、2年間を賃貸で仮住まいすることになります。
もしくは、新築時に割り当てられる住空間(専有面積)の権利を売って新居に移る。
ここで大事なのは、新築に住むための追加費用の問題です。
今回の場合、お客様は1,000万円が必要だと分かりました。
建て替えた新居の情報は把握できたので、お客様の今後の居宅へのニーズ確認です。
現在は90㎡。二人で住んでいるので、次は50㎡で構わない。
新築権利を売れば7,000万円~8,000万円になる。
追加費用を払ってまでのこだわりは無い。
売れば、住宅ローンの残債と相殺しても差額が生まれる。
これは将来の資金にもなる。
元手に余裕はある。
お客様「・・・では、売って移住で。」
将来の資金も潤沢にして適度な広さの住まいを探しましょう、という結論となりました。
新築の権利を売るには時期があります。
その時期が来たら、改めて相談に乗るということで悩みをスッキリされて、ひと段落となりました。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
売主負担でのフルリフォーム工事後の販売。
何度も言いますが、下手に内装に手を付けさせる不動産会社には気を付けてください。
先方の目論見、売れるまでの流れには売主が損をするリスクが高過ぎることが分かって頂けたら幸いです。
「フルリフォームをしたら販売価格が高くなる。」こういった謳(うた)い文句に乗るかどうかのお話しです。
少し冷静になってみませんか?
本来、買うにしても売るにしても『ギャンブルにしないこと』が大前提にして、不動産会社に声を掛けてはいませんか?
本当の目的、当初の願いをぶらされた結果、ギャンブル的な売却に手を出してしまいます。
地に足を付けて考えて、何百万円も先に出費してフルリフォーム工事が必要なのかを考えてみてもらえたらと思います。
そして、もしもこの記事を読んでいるあなたが、不動産会社に従事しているならば、正直に丁寧に仕事をしていたら次々と仕事が頼まれる業界であると信じてもらいたいと思って、お話しさせて頂きました。
雑な仕事ぶりが同業者に見抜かれてしまうように、丁寧な仕事ぶりもまた同業者には伝わって良い物件、安心した取り引きになるであろうとしてお客様に紹介されますから。
売主のためにも、買主のためにも、ネックには解消案までセットで売却活動を。