昨今、情報社会と言われ、情報過多とも言われて『調べれば大抵のことは分かる』時代。
不動産知識も、一般の方が身に付けていらっしゃいますね。
それでも、調べようが無い。
調べようとも思わない。
ここで大きな損を抱えてしまうケースは、まだまだ絶えませんね。
今回は、売主の立場になった時に損や失敗をし易い事例
だからこそ、知っておいてほしいと思っています。
≪目次≫
お客様背景
社労士からのご紹介。
離婚がきっかけで、売却。
売却活動は既にしているけれど、2年間も売れていない為、困っているので相談に乗ってほしいというもの。
現状の把握として、まずは不動産業者だけが閲覧できる物件データバンク『REINS(レインズ)』の登録状況を確認。
…物件の登録は確かに、してありましたよ。
けれど、販売図面の登録がされていませんでした。
こんな販売活動状況で、売れるワケが無いんですよ。
どういうことか?
あなたが不動産会社の営業マンであると想像してみてください。
不動産会社はノルマが課せられており
1日でも早く少ない接客回数で申し込みを獲得するよう
毎週営業会議で刷り込まれていることが普通です。
いざ接客。
REINSに、お客様の条件を打ち込み物件検索。
幾つも似たような価格帯の物件が表示されます。
10件表示されて、他の物件は販売図面が登録されて出力するだけの状態だとしましょう。
※実際には30件、50件と表示されることが多く100件を超えることも。
他の物件なら、お客様に直ぐに提案接客が出来ます。
そこで興味を引き、お客様から
「これ、気になるんで案内してほしいです。」
となれば、販売図面を登録されてない物件を扱っている不動産会社にわざわざ電話して、図面のFAX送信をお願いして、届くまで待つでしょうか?
上司や周りから
「案内してほしいって言われてんのに、何やってんだよ?」
なんて言われても可笑しくありません。
つまり…
紹介されず他の物件は次々と決まり、後から目新しい物件が登録され、情報の鮮度の高いものから紹介されていく…
新しいということは他社の営業マンが提案していない可能性が高いのですから、優位性を感じてもらえますよね?
日々、これの繰り返しですよ。
多大な営業プレッシャーの中で、不親切な情報は取り残されるのは当たり前の話しです。
私のような一人企業であれば、采配も接客ペースも自由です。
お客様に最適なペースで最適な道筋を通すことで信頼が雪だるま方式で積み上がっていく状況とは全く別の文化なのです。
売主様の一歩があればこそ
売却とは、売主様の気持ちも、こちらと一緒になり足並みを揃えて頂く。
これが、何よりも大事な『はじめの一歩』です。
背中を支え、力強さを与えるように
「クレームを今の不動産会社に言いましょう。」
「そして、REINSの物件登録の抹消をお願いしなきゃダメですよ。」
売主様に動いてもらわなければ私も動けないことが、たくさんあります。
売主様の姿があって、私たち不動産事業者の姿も決まると言っても過言ではありません。
売主様の一歩さえあれば!
私たち、本気でお客様を守りたくて支えたくて不動産業を営んでいる人間は幾らでも動けるんです。
これは忘れないでください。覚えておいてください。
今回は、相場から若干ながら頑張った価格1500万円で売り出しており、それが何の変化も、やるべき基本もせずに2年間も塩漬け状態。
放置だったわけです。
不動産売却での損は売れないことではありません。
不動産は『生もの』だと思ってください。
だから、情報という水分が留まり腐らないよう、対流させなきゃいけないんです。
手を変え、品を変え、目新しさと市場の反響を見る。
そして、反響に反応して動きを出すことです。
少し手厳しい話しではありましたが現状を認識して頂く為に
「価格を改めるなど手を打つか?今の腐ったままで売りますか?」と。
離婚も決まっており、時間が余り残されていません。
だからこそ、お客様には不動産会社への連絡と方向性の決定をして頂くしかありません。
多少表現が厳しくなろうとも、現実の厳しさを感じてもらったうえでの決断が必要だと考えていました。
価格を改めるなら、途中で元の値段に戻すことは出来ないからです。
値下げをすれば住宅ローンの残債額との差が余りなくなり、売却戦略の打ち手も限られてしまうのは正直なところではありましたが、そうは言っていられない2年間という時間の浪費。
私が出来ることは、購入申込時の価格交渉が入った時の対処を慎重に行なうこと。
売却にも諸経費は必要なもの。
取引後の手残り金額が残債を下回るような取引への対応は厳しかったのです…
売却開始2ヶ月
正式にご依頼いただき、弊社での仕切り直しでの売却再開。
1500万円では売れないのが明白ではありましたが、少し下げる程度で。
すると、2ヶ月で価格交渉はありましたが購入申し込みが入りました。
地方物件が好きな再販売目的で購入する不動産会社からの申し込み。
一般の方からの申し込みの場合、融資が通るか否か不安があるものですが、不動産会社であれば、その点の心配がない事は特典です。
…が、不動産会社が買主の場合、買い取った後は先方で手を入れるのが通常なので取り引きは『ざっくり』で、サッサッサッと進むものなのに、今回は確認が細かかったですね。
知っているからこそのチェック項目の多さでした。
後ろめたい項目も状況もないのですが
「数百万円の価格交渉して、まだ聞くのか!?まだあるのか!?」
というのが正直な感想でしたね。
いやぁ、疲れました(笑)
残債ギリギリの購入価格。
諸費用を差し引くと残債割れ。
とはいえ、これ以上の売却期間の引き延ばしも現実的ではない。
……
住宅ローンの借入元にお客様と一緒に行って、金融機関に相談しに行くことにしました。
相談に応じてくださり、100万円を別のローンに組み替え。
おかげで、残債割れを防ぐ形を取れるようになったのです。
大きなお金を預貯金から動かすこと無く、月々払いで対応できることになりました。
これは、金融機関の担当者がお客様事情を汲んでくださるお人柄であったことに救われた思いです。
交渉しに行かず、相談しに行くスタンスで訪れて良かったと、ホッとしました。
スタンス、態度ひとつで上手くいこともあれば、下手に刺激をして強情な態度を取られてしまうこともありますから。
こうして、期限にも間に合い、価格や支払いにも不安点なく、確認項目が多かったにせよ不動産会社が買主だったので取引後に何も言われない条件も通り、無事にお客様の悩みの種を取り除くことが出来ました。
手続きの詰めが結果に
先日、不動産コンサルタントと食事をしていた際のこと。
業界の不誠実さについて情報交換をしていると、更なる実態が。
「トラブル相談の時に、不動産会社とのやり取り確認すると、驚きますよ。」
「まず、媒介契約(売却活動を依頼する契約)の種類による報告義務、その頻度にも義務があること、契約期間が最長で3ヶ月までであること、契約更新に自動更新はないこと、売主からの更新連絡によるものでなければ更新は出来ないこと…これらの基礎説明が一切ない。」
「こんなのが、ザラですからね。」
「クライアントは、販売図面を目にしたことも無いとか。」
「これじゃあ、不動産会社と売主さんが足並みを揃えるなんて無理ですよね。」
「販売図面を見せてもらえたとしたって、売主としての意向を聞いてくれない。」
「それどころか、『こちらにお任せください。』でシャットアウト。これが当たり前。」
「売れなくても最後は、『不動産はご縁ですから。』が常套句。」
「それでいつまでも売れなくてウチに相談が来るんだから、世話がないって話しなんですよね。」
「これが大手の営業マンでも同じなんだから企業の大きさなんて何一つ意味が無くなってしまってますね。」
これを聞いて私は
「そこまでしていることが珍しくないの!?」
と聞き返してしまったぐらいでしたよ。
私は、物件の過去がどうであれ、横槍が入らない状況を整えて、普通に「いつも通り売り出せば大丈夫かな?」ぐらいに今回の件も対応していましたが、一般の方が知り得ない不誠実さの現実は、ある意味新鮮な話しでしたね。
実際、今回もこれまでも無事、売却に至れています。
文化(会社教育)の違いは、恐ろしいですね。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
いつまでも売れない裏事情には、売主様からも買主様からも仲介手数料を受け取れる『両手成約』が欲しいから、あえて図面をREINSに載せていないということもあると思います。
今回は、値段の不適切さ・レインズ登録は文字情報だけ・宣伝活動の不十分さ、がありました。
不動産会社の落ち度が多大にあるのは明白です。
しかしながら、最も大事なことは売主様も『自分ごとの意識』を持たなければ、幾らでも損をしてしまうことをお伝えしたいです。
工夫をして、「取り引き相手と上手に交渉を進めることで道は拓ける」と諦めなければ、それは実現しますから。