【二束三文と思っていた家が600万円!?状況を整えることが相続の仕事の本質】

今回もまた、難しいものが複雑に絡まった事例をご紹介いたします。

 

「賃貸不動産を相続したは良いけれど…」

毎月賃料が入ってくるから他人様から見たら良いように思えるかもしれない。

けれど…

当の本人は悩みや不安を抱えてしまっている、そういう方は実に多いものです。

 

専門家からしてみても同意しかない状況で、沢山あるんです。

 

「え!?どういうこと?」

 

簡単に想像の付くものではないので、そう思いますよね?

お金が入り続けていれば良いわけではないのです。

 

そんな事例を今回は、ご紹介したいと思います。

 

お客様状況

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長崎県に住む60代の男性。

長崎県出身の生命保険業の方からのご紹介でした。

 

紹介者からは、こう言われていました。

「娘さんが都内に住んでいて、年に2~3回は会いに東京に来るようです。その時に相談に乗って頂きたいんです。」

 

長崎県のご自宅に伺う話しではないし、急ぎの案件でも無いのかもしれない。

複雑な話しほど近々の予定が指定されることが多いので、少し気を楽にし過ぎていたかもしれません。

 

話しを聞いてみると、「これは…」と私も、悩むのも不安に思うのも頷けるものでした。

 

物件は、北千束駅から徒歩10分、60㎡の整形地に建つ貸家。

築年数は、かなりのもの。それでも、入居者あり。

賃料は月10万円。遅延、延滞は無し。

ここまでは、問題なし。

 

ところが、大きな問題点が2つ

建物が建つ土地の権利は借地権

さらに再建築が不可能な状況の土地でした。

 

前面道路と1.9mしか接していないため、建築許可が得られないのです。

※建築の為の接道条件は、2m以上です。

 

そんな貸家を売りたいという依頼でした。

「次の世代に残したくない…だから、手放したい。」

 

年に何度か東京まで娘さんに会いに足を運ばれるほど、ご家族を大切にされていらっしゃるお父さんです。

お気持ちは察するに余りあるものでした。

 

何が難しくさせているのか?

借地権

まず、この貸家における権利関係を見てみましょう。

 

構成は、このようになります。

底地人(土地の所有者)

借地人兼貸家オーナー(お客様)

借家人(入居者)

 

借地人が家を売りたいとなると、建物は勿論のこと、土地の借地権も一緒に売ることが通例です。

 

今回の場合、家屋の築年数は随分なものですから価格は付けられないものと見ます。

借地権は、借地権割り合いというものが接している道路ごとに設定されていますので、それを基に算出します。

 

インターネットで『路線価図』と検索しますと、国税庁が管理するサイトページが見つかりますので、ご自身の住所を探して記載内容を理解していくと覚えも早いでしょう。

(国税庁の路線価図のサイトは、こちら)

http://www.rosenka.nta.go.jp/

 

通常の所有権の価格を算出しましたら、借地権割り合いに合わせて、土地の価格を掛けます。

 

例えば、路線価で1㎡あたり100万円の道路に面する土地があったとします。

その道路に設定された借地権割り合いが60%なら、売るにしても買うにしても1㎡あたり60万円での取引が相場ということです。

 

逆に、底地を買いたい場合(土地の所有者から底地の権利を買って借地権を所有権にしたい場合)は、底地権にあたる40%(100%-借地権60%)、1㎡あたり40万円で買うのが相場ということになります。

 

と、まぁここまで借地権の価格算出方法を話してきたわけですが、今回は建物が入居者のいる貸家です。

 

入居者がいる場合は賃料を得る権利の売買です。

投資物件としての扱いが妥当です。

賃料÷利回り=価格で算出する査定方法『収益還元法』を用いる、至ってシンプルな計算式です(笑)

 

回りくどくも解説をしたのは、せっかくの借地権のお話しです。

売買取り引きの知識の一端として知っておいて損はないと思ったからです。

 

路線価と借地権割り合いは、知っておくと何かと便利ですよ。

 

さて、本題である問題の難易度の話しをしましょう。

借地権を買ってもらうというのは、買主が自宅や事務所としてなど買主ご自身が活用する場合には、時間を要するとしても一般市場での取り引きは可能です。

 

しかし、貸家で賃貸中となると、価格の折り合いが付きづらいものなんです。

 

先ほど、借地権の売買と投資物件の売買の価格算出方法をお話ししました。

都内ですと、借地権と築古の貸家では計算式の性質上、借地権の方が高い価格が算出されます。

さらに、名義変更手数料を底地人に支払ったり、借地権は更新料を底地人に支払ったりと出費があることで、投資効率が大変悪くなります。

 

一方、投資物件の扱いで『賃料からの割り戻し』で算出すると、大変安い金額設定になります。

安いとは言え、先ほど申し上げた底地人への出費があることは同条件です。

 

取引価格が安くても長期収支計画で見れば、コスト面は他の投資物件と比べると悪いものになります。

 

一般消費者の買主様を対象とすると、安くても『手を出しても良いことが少ない』物件に分類されます。

 

こうなりますと、取引対象が底地人か、もしくは借家人の二択です。

それでも、どちらかがが買ってくれたら相当に運の良い話しです。

期待しないこと、自分で慣れない交渉ごとに動いて失敗すれば、その後プロが間に入っても取り引きがまとまるものではありません。

 

チャンスは一度

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取り引きチャンス一度

そう捉えるのが賢明なのが不動産です。

 

大きな金額が動くものですから、感情が成約の成否に大きく作用する取引です。

縁ものと言われますから、そこから縁起物の扱いもされます。

 

一度、難癖の付いたものは縁が無かった、諦めるも吉とされます。

これは、時代や年齢層は無関係のようです。

知ってか知らずかは問わず、若い年齢層の方でも同じ反応を示します。

 

相当に、左脳的に金銭メリットで割り切れる性格と打算があれば話しは変わりますが。

 

そういったこともあり、セオリー通りであり希少な取り引き相手は底地人と借家人のお二方となります。

 

正直に状況を整理し、ご理解を頂いたうえでお客様にご意向の再確認。

「二束三文でも売れたらラッキーですよ?」

「ダメ元で動きます。」

そう、告げておきました。

 

何せ、入居者は70代。

ローンを組めるわけでも無いので見込めません。

 

つまり、実質的商談対象は底地人の一択だったのです。

底地人に当たってみるか…

 

ところが、最初は底地人の所在が分かりませんでした。

毎月の地代の振込先は昔から変わってはいなかったのですが、なんと、底地人は相続が起こっていて、かなりの時間が経っていたにも関わらず、相続手続きをしていなかった為に、現在の底地人が登記簿謄本では分からない状態だったのです。

 

この状態では、私には調査権限が職務的にありません。

お客様のほうで底地人探しの調査をお願いしました。

 

しばらくして、現在の底地人の居場所が電話番号も含めて分かった旨の連絡がありました。

早速、私から底地人に電話することとしました。

 

「一回、会ってくれませんか?」

お客様事情を話すと理解を示してくれました。

 

「あぁ、あの土地ね。知ってはいるよ。」

こちらの申し出に応じてくださったのです。

 

会ってみると

「どうしようもないよね・・・」

底地人として、お客様である借地人の視点とお気持ちを察してくれました。

接道が1.9mであることを認識していたのです。

 

私からの提案

男性 電話

「これ、売れるの?ホントに??」

 

名義変更への承諾もあるのですから、お客様の売りたい意向はお伝えしました。

無理のない反応です。

しかしながら、底地人である目の前の方に借地権を買う意向を確認したわけではありません。

 

底地人でも借家人でもない第三者への売却戦略への了承とご理解を求めたのです。

 

提案内容は、こうです。

底地権と借地権を同時に買って所有権として欲しがる人を探して来ても良いだろうか?

底地人のあなたも売る気はありませんか?

 

この提案に、先ほどの疑念の反応だったのです。

疑念はありつつも、売ることには了承を得られたことで、底地人と借地人の二人から売却了承の契約である媒介契約書を取り交わすことが出来ました。

 

入居者は70代。

例えどんなに元気であられても、明日、何が起こっても不思議ではない年齢。

悠長に事を構えているわけにはいきません。

 

リスクをチャンスと捉えてくれる相手を購入ターゲット層にすることで、可能性も効率も上げることができます。

 

隣地の方か不動産買い取り専門業者です。

隣地居住者は、入居者へのネガティブな印象さえ持っていなければ、理解を示しやすい唯一の一般消費者と言っても過言ではありません。

 

しかし、今回は意志の決定根拠が明確なことが大事です。

今回のような難しい案件を好む買い取り業者に絞り込んで動くことにしました。

 

買い取り後の物件の有益な運用方法をプレゼン。

 

直ぐに転売せずとも、しばらくは保有しても利益が出やすいパターン

通常通り、直ぐに転売するパターン

どちらでも、有益な金額設定で商談に来ている旨を伝えました。

 

結果、買い取り業者の反応は

「隣地と交渉して、10cm分の土地を買えば良いんですよね?」

 

私としてはリスクヘッジの道と軽口を混ぜて…

「もしも、その交渉が上手くいかなくても利益が出る前提ですよ。」

「(上手くまとまれば)化けるから大丈夫なんじゃないの?」

 

業者「…うん、そうですね」

 

都内、徒歩10分圏内の優良立地条件の難しい案件にチャレンジする会社

落ち着きどころとして利回り20%、商談スタートは16~18%で示したいところです。

 

700万円(約17%)でプレゼンはスタートしていました。

そこに、600万円での指し値。

 

「二束三文でも売れれば、相当に運が良い。」

お客様には当初にこのように伝えていた身としては、かなり嬉しかったですね。

 

買い取り業者との取引は、建物にしても、土地にしても瑕疵担保責任は免責(不問)です。

面倒で見通しが付きにくい隣地との10cm売買の交渉も買主任せ。

 

取り引き条件は消費者に有利です。

 

まとめた商談を、長崎で待つお客様と底地人に報告。

売価600万円の内訳は、借地権割り合いに沿って対応します。

 

底地人    借地人

240万円 :360万円

 40%  : 60%

 

お客様たちは、当然に驚きと喜びで迎えてくれました。

「おぉ!スゲー!!ラッキー、ラッキー!!」

「ありがとう、ありがとう!」

 

今回の商談のミソには、もう一つ、仕掛けがあるんです。

 

一般的に、商談を上手くまとめるには不安要素、不確定要素は排除しておくものでしょう。

ところが、不動産取り引きにおいては、不安要素を残しておく方が有利な商談の持ち掛け方となることもあるんです。

 

入居者が、いつまで健康であるか?

 

もしも、近年に何かあって退去になれば、現状で売るよりも更地にした方が買い手は付きやすい築年数なわけです。

 

大きな出費、解体費の問題です。

次の展開にお金が必要になるからこそ、買主有利の『収益還元法』の採用で価格設定を下げ、入居者の万が一が更地取り引きを引き起こし、価格を一気に跳ね上げ、収益を上げられる旨みです。

 

こういった差益の儲けの出し方をアービトラージと言います。

アービトラージ…これこそ、手塩に掛ける不動産コンサルティングの面白さです。

 

不動産とは、今回のように状況によるアービトラージの発生は勿論なのですが、その他にも価値の感じ方の違いで、まったく別物クラスで金額が変わることもあります。

 

そのお話しは、また別の機会にでも。

 

不動産コンサルティングとは、状況を整えつつも、残すものを何にするのか、どうするのか一つで魅力が変わることにあると思います。

 

一般消費者が動くから出来ること、我々プロだから動けること。

 

それぞれの利点は状況によって違うからこそ、「頼んだら、後は任せたい」という無関心・他人事では進められない、もしくは取れる手段が減ることで大きな損をお客様に与えてしまうことがあります。

 

依頼料にかける期待は、人それぞれだとは思います。

しかし、勝手にやっててほしいというスタンスだけは捨ててください

 

無駄に自分たちだけで動くことも得策ではありません。

私たちへの理解のうえで協力的になってくださいますと、今回の事例で底地人が見付かったように、大きな一歩を踏み込めることが沢山あります。

 

難しい案件でも、パズルのピースを一つずつ嵌める楽しさもまた感じて頂けましたら、きっと解決に向かうと私は信じています。