前回、売主のこだわりと売却機会の折り合いについて触れました。
『売主必見!価格交渉に惑わされない3ヶ条』
今回は、売却機会と相場崩れについて話していきたいと思います。
ところで、価格交渉と相場崩れ。
これを聞いて、無関係な言葉ですか?同じような言葉ですか?
あなたは、どんな印象を持ちましたか?
これは、一見無関係のように思える言葉です。
3ヶ月以上の売却経験がある方には、同じように聞こえる場合もあるかも知れません。
この2つの共通項目は、『時間の経過』です。
原因が同じですが、似て非なるもの。
聞き手の経験次第で分かれやすい、ということです。
価格交渉と相場崩れ。
この違いは何でしょうか?
それを事例と一緒に知ってみてください。
≪ 目次 ≫
判断基準の二側面
売却機会とは、購入申し込みが入った時のチャンスのこと。
売出価格のままなら判断も何も了承だけで良いですよね。
売却の機会を見誤る原因は価格交渉です。
価格交渉が入った場合には、どう判断するか?
客観的に、冷静に…そう思いたい時の分析材料は、この二つ。
1.感情やこだわりといったあなたの内的要因
2.競合物件との比較(相対的指標。相場。)といった世間、外的要因
前回は、内的要因の事例でした。
内的要因による引き延ばしが、自然災害という外的要因を呼び込むまで売るチャンスを延ばしてしまいました。
今回は、外的要因となる周辺市場の変化の事例です。
今回の物件状況
新宿にあるタワーマンションの一画の売却依頼。
築年数は20年ほど、広さは60㎡程度。
売り出し価格に欲を乗せる希望はない方でした。
であれば…相場に沿いながらも少しの価格交渉には乗れる価格で提案して売主、買主の双方に喜んでもらえる価格。
かつ、売り出し価格のままでの取り引きでも買主にも損の無い取り引きとなる価格。
このバランスです。
売主から合意を頂けた6,480万円で売却開始。
嬉しいことに、わずか二週間で購入申し込みが入りました。
満額とまではいきませんでした。
それでも、6,380万円での希望価格。
約1%の値引き依頼です。
私「これは、いいですね!この価格で売りましょう。取引で大事なことは流れですから。不動産はご縁です。この価格で売ったほうが良いと、私は思いますよ。」
しかし売主は躊躇してしまいました。
売り出し開始から間もない価格交渉は、得てして売主に葛藤を生みやすいもの。
躊躇は良い結果を生みません。
経験上、対応次第で買主がキャンセルすることを私は知っています。
回答を出すためのサポートも兼ねて、幾度かお電話をしていました。
5日後、買主側不動産会社からの入電。
「他のマンションを購入するということになりました。キャンセルでお願いします。」
向こうからのお断り。
相場崩れの原因
ここから流れが変わってしまいます。
それから半年間、反響も薄くなり売れることはありませんでした…
戸数の大変多いマンション。半年の間に競合物件の状況が変化したのです。
同じマンションで幾つもの部屋が売りに出されるという事態に。
当然に、後から売却を始めた物件は、買主の目に留まりやすいように工夫します。
その手法として価格を安くしてきます。
相場崩れの始まりです。
競合物件の中には、リノヴェーション工事を済ませた新築さながらの室内状況で売り出す物件も出てくる始末。
・近隣での競合の急増
(同じマンション内での複数の売り出しが最も価格維持が難しい)
・分かりやすい差別化となる美室物件
(特にリノヴェーション物件の存在)
これらが『相場崩れ』を引き起こします。
そのどちらも台頭している、こうなると手が付けられなくなります。
売主側に主導権が無くなるのです。
買主と孤独な売主
誰でも容易に買主の気持ちを想像し始めます。
いち早く売り出し競争から抜け出すには、買主目線が必要なことは分かって頂けます。
不動産会社としては、100万円の値下げは仲介手数料3万円の差です。
そう、値下げは売主の痛みとは比べものにならない程、痛みとは言えない売り上げの損失です。
販売価格の値下げが仲介手数料にも響くといっても、これぐらいだということです。
ここもまた、忘れずにいたいものです。
当然に不動産会社としては、売り易さほど欲しい条件はありません。
売主は売れなければ、自分たちの望む新しい暮らしの展開は訪れません。
本当に売主の痛みを分かるのは売主だけです。
冷静に見れば相場崩れを起こしていることと、物件そのものの魅力は無関係です。
それでも、購入検討者の目に留まらず内見してもらえなければ、何の結果も生まれません。
私たちもその時のマンション相場を見て、金額を5,980万円に改めました。
それでも、そこから約1年もの間は反響も薄いまま。
更なる相場の下落も起こり、5,780万円に。
すると、5,580万円の価格交渉で購入申し込みが入り、成約となりました。
流れとご縁
前回のブログ事例にも今回の事例にも言える、売主が最も起こしてはならないことが『躊躇に時間を割きすぎること』です。
その結果、買主が他の物件に決めて断られてしまっています。
取り引きにおいて、流れはとても大事です。
本気の試合という形式でスポーツに取り組んだことのある方なら分かっていただけますでしょうが、一度逸れた流れを引き戻す難しさや要する時間の多さ。
説明には難しいのですが、やはり不動産取り引きにも流れが存在します。
信じるか否かはお任せします。
内見も購入申し込みも流れの中のひとつです。
内見しやすい状況にしているか?
室内の清潔感も勿論ですが、空き家の場合は鍵をどこに預けるか?どこに設置するか?
そういった申し込みのための事前の流れもあります。
≪ご縁≫
内的要因と外的要因の二側面だと先述しました。
兎にも角にも、この二側面は突発的である購入申し込みが入ってから取り組んでは後手に回ってしまい、おかしなことになります。
すべて事前に取り組んで、心構えを整えておくことをお薦めします。
不動産売買の判断の多くは、数字に対する話しなのですから。
数字の話しは、売却前の必ず説明を受ける不動産査定書の理解と打ち合わせをきちんと頭に留めてください。
売主が躊躇する理由のひとつに、価格の基準値をどこに置いているかが、実は原因です。
例え、売り出し前の打ち合わせで成約予想金額に合意をいただいていても、いざ価格交渉が入ると、つい『現在の販売価格から、幾らのマイナスなのか?』で惜しい気持ちが沸き上がります。
成約予想金額から考えていくと、意外にも計画通りであったりします。
気持ち良く購入申し込みに目を通せることが多いものです。
そして、物件金額が大きいほどに価格交渉の幅も大きくなります。
例えば、2億円の物件と2千万円の物件。
同じ価格交渉幅になりそうですか?
そういうことです。
自身の物件の特性、市場の特性を理解しておいてください。
今回の事例でいえば、戸数が非常に多いマンションなのだから競合がないうちに成約することのメリットへの理解です。
まとめ
不動産情報は、水もの。
不動産物件との出逢いは、縁もの。
相場崩れの可能性も視野に入れてください。
価格の決定も、価格の維持も、価格改定も最終決定権は売主です。
道理や経験則は伝えられますが、「強く言う権利や強い発言に果たせる責任」などは存在しません。
私たち不動産会社が果たす責任とは、市況の中での相場価格での成約です。
成約におけるお金の出処は、当たり前に買主です。
時期も、誰が買うかも、すべてが不明だからこそ判断結果は自己責任として、売主に振り被ってきます。
売却は、売主ひとりでは非現実的です。不動産会社だけでは取り扱う物件という商品さえ無いので不可能です。どちらが欠けても成り立たないからこそ、市況を一緒に見極め、足並みを揃えて、来たる購入申し込みに向けて流れを作っていこうと一件ずつ取り組ませて頂いています。