今回のご依頼は、不動産投資セミナーの類いにそそのかされて何軒も購入したけれど、そのすべてが赤字経営で命を絶ってしまった方の遺族からのご依頼によるもの。
まず申し上げておきます。
不動産投資家と名乗る人間、会社など組織も含め自称するところからの情報を鵜呑みにして不動産を買わないでください。
物件の現地、周辺を確認もせず買うことを勧める人間とは、確実に距離を取ってください。
どれほど大変な物件を紹介してくるのか?
あまり重苦しくならない文体にはしますが、その一端だけでも知ってみてください。
≪ 目次 ≫
1.ご相談背景
2.前面道路は、あなどれない
3.取り引き市場には理解と承認を
4.買い取り業者も拒否反応
5.不動産投資に必勝法はない
ご相談背景
遺族の方からすれば、物件をすべて売らない事には清算ができません。
競売に掛けるにしても、一般の方が手続きをすべて行なうには手間が増えて大変なだけ。
金額にしても競売となれば叩かれに叩かれた末のものになってしまいますから、掛けた手間に対して割に合わないのが関の山。
とはいえエンドユーザーに向けて一般市場に売り出しても・・・
物件そのもので事故や事件があったわけではない、買った当時の金額が高過ぎただけであっても、所有者が亡くなったことがきっかけとなれば、時間だけがいたずらに過ぎてしまう・・・
相続人としても持っていたくない、早く片したい想いが強いもの。
急ぎの解決の部類には入るご相談です。
所有者個人だけでなく、所有者の法人の清算手続きも控えていたのです。
前面道路は、あなどれない
所沢市にある賃貸中の戸建て、築46年 賃料5.5万円。
前面道路は、幾人もの人が持ち分を持つ共有の私道。
道路付けも良くありませんでした。幸いなことは、再建築不可ではなかったことですね。
共有持ち分の道路は不安要素を含むものです。
共有持ち分のうちのお一人の気分ひとつで邪魔をされることだってあるんです。
安全を期するための手立てとしては道路の持ち分をもらうか、買い取ること。
出費をしてまで・・・そう考えると取り引きに難しさを残した物件となります。
・・・そして物件付近の道なりにも特徴が。
坂が、とにかく急こう配。
建て替えるにしても苦労が目に見えるもの。
何にしても時間が掛かるであろう物件を、そのままの状態で買ってしまっていたということです。
取り引き市場には理解と承認を
物件状況が分かったところで相続人である売主に説明をして、売却戦略に承諾を得る必要があります。
1.現在は賃貸中であろうと、前面道路の持ち分所有者全員に建て替える際の通行承諾やインフラ整備の際の道路の掘削承諾などを含めた承諾書が本来は必要であること。
2.重要事項説明書への記載義務には含まれなくても買主に迷惑が掛からないように問題のタネがどのようなものかは明らかにしておくこと。
3.今回の売却は、物件状況が将来に渡って整っているものではない取り引きであること。
これらを伏せてしまってはエンドユーザーに対して非人道的な取り引きになってしまうので、きちんと説明させて頂く旨をお伝えしました。
私は、売れれば良いだけの取り引きに加担はしません。
買主に今後かかるであろう迷惑を考えない、そういった取引を私に相談してくださった売主にさせたくもありません。
私は、取り引きは後味も大切にしたいと思っています。
これは最近聞いた話。
ある不動産会社が、頼まれていた売却物件が長い間売れずにいたところ、別の不動産会社が売主にアプローチをして売却依頼が破棄されたとのこと。
その腹いせにしたことに耳を疑う行為だった、と。
前面道路の私道の一部が、登記ミスにより売主の祖父の名義のまま。
名字だけを追っても分からないそうです。
その登記が相続登記で改訂されないままだと未接道物件となり二束三文になってしまうのに…下手をしたら、どなたかに持ち分の一部を売ってもらわなければいけないかも知れません。
その事実を引き継ぎもしない、売主への報告もしなかったそうです。
それを「ざまあみろ!」という態度で言い放ったらしく、その場が揉めたという話しです。
雑談の場であろうと、お酒の席であろうと言って良いこと悪いことはあります。
こういう事実もまた起こっているのが現実です。
きちんと調査報告は受けるようにしてください。
この話しを聞いて思うことは3つ。
1.長い間、売れなかったこと。
2.売主との人間関係を保てない時間の過ごし方をしていたこと。
3.物件調査の報告、情報の共有を果たしていないこと。
売主に責任ありますかね?
そういう在り方だから、売却依頼を切り替えたくなったのだと思います。
取り引きの後味とは、責任をどこまで見越しているか?
ここにあると思っています。
だからこそ、一般市場への売り出しではなく、不動産買い取り業者に声を掛けて彼らが再販売する際に状況を整えてもらう主旨をご理解いただき、活動の方向性に承諾を頂きました。
買い取り業者も拒否反応
買い取り業者への声掛けと一口で言っても、購入の検討が難しい物件です。
付き合いと理解のある買い取り業者に当たることが良いだとうと考え、3社に声を掛けてみました。
・・・いずれの会社からも返答は「買わない。」
ここまでの予想はしていなかったので、本当に意外でした。ショックもありました。
「値を付けることもできない。」と言われたことと同義ですから。
買い取り業者の気持ちは分かります。
状況を整える手間、再販売(転売)することで利益を回収することがビジネスモデルです。
買い取った後、そのまま保有することもあります。
それは保有している間も、それなりの利益が見込める場合に限られます。
そんな中、たった1社「買いますよ。」と手を挙げる会社が。
本当にたまたまのご縁です。
数日前に不動産コンサルタントから紹介されて出会った買い取り業者でした。
この会社に出会ってなかったらと思うと・・・
出逢いに感謝しています。
お引き合わせとなったその時にも、「誰も買わないような物件があったら声を掛けてほしい。」と確かに言っていましたが、ここまでとは。
助けていただいた想いです。
値も付きました。160万円で買ってくれることになりました。
表面利回り41.2%。
固定資産税と都市計画税の合計年額3.1万。実質利回り39.3%です。
3年弱で回収できる計算です。
手続きは通常の売買契約です。
売主の負担も特別なものは無し。
瑕疵担保(売主が知らない物件の欠陥)についても免除。
私としても、ひとつ心強い買い取り業者と取り引きという形で繋がることができました。
業者としても退去後であれば、利益も相当のものになるので暫くは保有することでしょう。
誰もが願ったり叶ったりの取り引きとなり、ご相談に幕を下ろすことができました。
不動産投資に必勝法はない
今回の案件に至る不動産投資を語る組織や本などにおいて総じて、皆さんにお伝えしたいことは、『不動産投資に必勝法』なんてものはない、ということです。
事の発端に戻れば、今回の物件だけではなく、その他の幾つもの1棟もの投資物件を買ったことにあります。
セミナーや勉強会などで物件を売ろうとする会社は不動産事業者に限らず、たくさんあります。手口が綺麗なものばかりではありません。
それでも、不動産事業者だけを悪者扱いするつもりはありません。
どんなケースであろうと、買ってしまった本人は決断をしてしまったのですから悪いんですよね…
大手を振って先導している不動産投資家もたくさんいます。
「不動産投資は現地を見てから決めるものじゃない。」
「良い物件は、現地を見に行っているうちに他の人に取られる。」
「物件データと数字の世界だ。」
「不就労所得だ。」
「元手がいらない。」
そんな謳(うた)い文句が横行しています。
不動産投資は事業です。
物件という商材を使い続けてもらう、物件という会社を経営する事業だということです。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
現地を見ない、物件の環境調査をしないままでの購入のリスク。
相続不動産と言われるもののすべてが資産になるとは限りません。
延々と付きまとう見通しの付かないお金の悩みは、命を絶つ決断にさえ至らせます。
物件を知らないままの購入、教えないままでの取り引き、そんな間柄での投資用不動産の無責任さは、今回のように後処理がとても大変なことになります。
きちんとしたアドバイスやサポートの元、不動産投資は始めてほしいと切に願います。